ハンガリーでバスキングの聖地を発見した。

ハンガリーを訪れた僕だが、この国にこれといった目的はなかった。

 

ただ友人と落ち合う約束をしている次の国にオーストリアまで行くのに通過する一つの国としか考えていなかったのだ。

 

しかし、この時僕はまだ知らなかった。

 

ハンガリーがバスキング大国だという事を・・・

 

僕は世界中を絵を描きながら旅をしている。

日本と違って売る商品がなくても普通に路上で絵を描いてるだけでチップとしてお金を稼げてしまうからであり、海外では日本では得る事ができない刺激を受ける事ができるからである。

 

ヨーロッパでは数多くのパフォーマーを目撃したが、大抵の人が楽器で音楽を奏でていた。

もしかすると絵を描いて旅をしている人は僕以外には存在しないのではと思わせるほど路上で絵を描くパフォーマーを目撃する事がなかった。

 

しかし、何気なく通過するはずだったこのハンガリーでその考えが覆される事になるとは、この時の僕はまだ知るよしもなかった。

 

日本の夏祭りに似ている

僕はエベスという田舎町に滞在している。

 

そこには地平線の向こうまで広がる大きな牧場があり、人の気配がほとんどないかなりの田舎町だ。

 

昨日はホルトバージ国立公園という文化遺産に認定された広大な土地にも訪れたのだが、それ以外何も見る所がなかったので今日でハンガリーの滞在を最後の日と決めていたのだが、朝から今滞在している宿から一歩もでる事なく、すでに15時を回っていた。

 

何もする事がないエベスで、ただただ1日を浪費するのがもったいなく感じた僕は何気なくGoogleマップでエベス周辺の町を見ていると、ここから一つ隣にある大きな町ハイドゥーソボスローを発見した。

 

そこに行けば何かあるかもしれない。

 

そんな期待を胸に最後のハンガリーの旅を楽しむ事にしたのだった。

 

隣町のハイドゥーソボスローにはバスで10分程度で到着した。

 

高級な住宅街が並び、3つ星ホテルや5つ星ホテルが至る所に建てられていたが、町の雰囲気は静かで人も少なく、どこか寂しい感じがする。

さらに町の奥へと進むとそこにも大草原が広がっていた。

そこでは夕日をバックに背中に巨大な扇風機のようなものを装着し、陸から空へと飛び立つ人達が何人もいた。

後で調べてみるとどうやらモーターパラグライダーと呼ばれるスポーツらしい。

 

芝生の上に腰掛け、何をするでもなくただただボーッと空を飛ぶ飛行機とそのバックに沈みゆく夕日を眺めていた。

「もうハンガリーは十分やな。絵のインスピレーションもそれほどもらえなかったし、明日の朝からオーストリアに向かうから帰って準備しよう」

 

そんな事を考えながら、重い腰を上げ、夕日が沈む前にエベスの町へ帰る事にした。

バス停に向かう道中、何やらハイドゥーソボスローへ訪れた時の静かな町の雰囲気が一転していた。

 

町はいつのまにか、多くの人で賑わい、屋台まで出ている。

バス停へと向かうのをやめ、僕はこの町を探索する事にしたのだった。

 

色んなバスキングの種類

民族衣装と民族楽器を肩からかけ、インディアンのような出で立ちで歌を歌っている人の周りには人だかりができていた。

 

ヨーロッパのバスキングでよく目にするのがギターを弾いて歌を歌っている人なのだが、このような個性ある人達を僕はこれまでの旅で見たことがなかった。

演奏が一通り終わった後、目の前におかれたカゴに次々とチップを入れるまわりのお客さん達。箱の中には大量の札束がたまっていった。

 

他にもスプレーを使って一瞬で宇宙空間を描くバスカーもいた。

彼の名はジェームスと言い、バスキングだけで生計を立てているという。

確かに見ている限り、どんどん絵が売れていく。

ジェームスにバスキングの許可は必要なのかと尋ねると、一応建前で許可はいるのだが、別になくても大丈夫とのこと。

 

現に彼も許可を得ずにスプレーアートでバスキングをしているようだ。

 

まさか今まで特に何もなかったハンガリーにこのようなバスキングの聖地があるなんて想像すらしていなかった。

 

僕は絵具道具を持ってこずにこの町を訪れた事を後悔した。

 

しばらく町を探索し、バス停に戻るとそこでもバスキングをしている青年がいた。

彼の名はロベルト。

どうやら彼はこのサッカーボール一つを使ってバスキングをしにきていたようだ。

 

「どのくらい稼げたの?」

 

僕がロベルトに尋ねると彼はおもむろにカバンから透明の箱を取り出す。

 

透明の箱の中には大量の小銭と札束がつまっており、それを自慢するかのように僕に手渡してきた。

 

「今会ったばっかりの人にこんなもの渡したらダメ!盗まれるよ!」

 

っと僕が言うと、少し照れ臭そうにカバンの中にしまった。

 

 

この町は平和で、あまりそのような人を疑う考えがないようだ。

 

世界にでると様々な方法で生活している人と遭遇する。

 

 

日本では就職しない人間はダメなやつと言われる風潮があるが、それは日本国内だけでの考え方である事を強烈に悟った。

 

何も皆が通る道をいく事が正解ではない。

 

 

自分らしく生きるにはまわりの意見に流されず、自分が想像する生活を実現するための行動というものをとらなければならない。

 

僕はこの時、絶対に日本の常識内では生きていかないという決断を再確認した。

 

 

でなければ自分の人生に嘘をつく事になるらである。

 

 

ハンガリーでは何も得るものがなかったと思っていたが、最後の最後に自分自身の人生の生き方、考え方について大きなものを得る事となったのだ。

 

明日からはいよいよオーストリアへと向かう。