雨粒が窓に衝突し、コツコツと音を立てている。
先程まで大嵐だった天気も少しずつ回復の兆しをみせていた。
雨音とバスの心地良い揺れがこれまでのヨーロッパの旅で受けたストレスを癒してくれているような気がした。
これからこの先どの程度旅が続くのか決めていなかったため、僕はとりあえず野宿をしたり、安宿を発見したりと旅の出費を出来る範囲で抑えていた。
ヨーロッパの旅ではトラブルに巻き込まれたり、無駄な出費が多かったりと散々な目に会う事も少なくなかった。
旅の中で起きた出来事は僕のストレス袋をどんどん膨張させていった。
スロバキアの都市であるブラチスラバからバスに乗ろうとすると予約ができていませんと言われたり、バスに乗っていたおじさんに適当な事を言われて大草原のど真ん中にポツンと立っているバス停で下ろされてしまったり・・・
その後は灼熱地獄の中、日陰もなく約2時間以上その場でどうしようか途方にくれていたり・・・
幸いその時にトーマスという青年に助けられ、何とか無事に大きなバス停がある街ポプラトに到着する事ができた。
ポプラトにつくとさっきまでの灼熱地獄が嘘のように突然の大嵐に見舞われた。
僕は旅をする時は次に行く街の情報を一切調べずに出発するのだが、今回ばかりは安宿だけでも調べておけばよかったと後悔した。
次はレヴォチャという街に向かうのだが、もしもその街が何もない田舎街なら宿もないかもしれない。
これまで何度も野宿を経験したきたが、さすがにこの大嵐の中で野宿は危険である。
「頼むから大きい街であってくれ!」
僕は祈るような気持ちでレヴォチャ行きのバスに乗り込んだのだった。
バズに乗って約2分程度たった頃、これまでのヨーロッパの旅で悪運を使い切ったのか、少しずつ雨の勢いもおさまってきた。
雨さえ降らなければどんな田舎街でも問題ない。
宿がなければ野宿をすればいいだけなのだから。
それから30分ほどバスに揺られ、ようやく目的地であるレヴォチャに到着する事ができた。
空を見上げるとそこには青空が広がっており、さっきまでの大嵐が嘘のように天気は完全に回復していた。
「よし!宿探しだ!!」
僕は意気揚々と壁に囲まれた街レヴォチャへと突入するのであった。
現地で安い宿を発見する方法
世界を旅する上でどうしても抑えておきたものが旅の出費。
安宿に泊まったり毎日の食事を節約したり、なるべくお金のかからない交通手段を選んだり・・・
長旅であれば長旅であるほど、これらを節約する方がよいと言えるだろう。
僕は世界を旅しながら画家の仕事をしている。
今となっては絵を描く事で収入が発生する方法を知ってしまったのでお金に困る事はなくなったが、それでも無駄な出費は抑えたいと考えている。
そこで今回は実際にスロバキアで実行した安宿を発見する方法をお伝えしよう。
安宿の鍵は○つ星ホテルへ!
スロバキアのレヴォチャは、有名漫画の進撃の巨人のように壁で囲まれた街である。
ここに来た理由はただ一つ。
この街の近くの丘の上に廃墟と化した大昔のお城がたっており、そこから次に描く絵のインスピレーションを頂くためである。
しかし、まずはその前に宿を探さなければならない。
安宿を一番簡単に探せる方法と言えば、もちろん現地の人に尋ねるという事である。
しかし、ここで問題が発生する。
日本人はヨーロッパの人達皆が英語を話せると思っている人も多いようだが、実際の所そうではない。
田舎に至っては英語が全く通じず、かなり困ってしまう状況に陥る事もある。
そのような状況をさけるため、僕はとりあえず3つ星ホテルや5つ星ホテルのようなその街で一番高いホテルに向かうようにしている。
もちろんそのホテルに泊まる目的でいくのではない。
英語が話せる人、そしてその街の事について詳しい人と会う目的でいくのだ。
高級ホテルのフロントにいる人は、大抵の人が英語を話す事ができる。
そこでとりあえず「一泊いくらですか?」っと泊まりもしないのに訪ねてみる。
もちろん高額な金額を言われるので「あ~そんなお金僕持ってません。どこかもっと安い宿ないですか?民泊でもいいです!」っと言うとその街周辺で一番安くて人気のある安宿を教えてくれる。
ホテルマンは大抵その街の宿を把握している。
この方法を使って今まで何度も安いわりには、かなり綺麗な宿に滞在してくる事ができたのだ。
当然レヴォチャでも一泊1000円の綺麗で清潔感のある安い宿を発見する事ができた。
一軒家のような作りでベットは2つあるが、この部屋を1人で使わせて頂いた。
有名漫画「進撃の巨人」の街を観光する。
無事に安い宿にたどり着いた僕は、一眼レフカメラと少量のお金を持って街を探検する事にした。
この街は大きな壁に囲まれてできた街であり、あの有名漫画「進撃の巨人」の世界感がそのまま再現されているようだった。
街の周囲は大草原に囲まれており、その先にまた同じような街が小さく見える。
お腹がすいたのでとりあえず、スーパーで食料を買いにいった。
ビールとハムとプチトマトとレタスとチーズ。今夜の晩御飯の準備はこれで完了である。
そうこうしている内に太陽がオレンジ色に輝き、街を赤く染める。
沈みゆく夕日を見ながらビールを飲み、ハム巻きチーズトマトを食べる。
目の前ではカップルがいちゃついている。
カップルの写真を撮っていると日本人が珍しいのか、街の少年3人組が僕に話しかけようか迷っているのか視界の角に見える。
カップルから彼らに被写体を合わすと嬉しそうにポーズを決めてくれた。
スロバキアの子供は無邪気で、手をふると絶対に振り返してくれる。
この小さな街にアジア人がくる事自体珍しいのだろう。
スロバキアの首都であるブラチスラバから色々ストレスの溜まる事もあり、かなり長い旅路のように思えたが、こうして夕日を見ながらゆったりした時間を過ごすと今までの疲れもすっ飛んでいく。
明日はいよいよスロバキアの目的であるスピシュスキー城に向かう事にする。
丘の上に立つ廃墟の城・・・
この言葉を聞いただけでもワクワクが止まらない。
その城は僕に何の力を与えてくれるのか・・・
こんな事を考えていると2人の女性がこちらに近づいてきた。
高台の塀に坐ている僕の隣に座り「どこからきたの?」っと英語で訪ねてきた。
「日本!!」っと言うと隣に座っている方の女性が後ろに立っていた女性に向かって恐らくスロバキア語で「日本人だってさ」っといった感じで話しているようだった。
そして何か2人で話している。
「何を話しているんだ?」っと考えていると隣に座っている女性が突然信じられない事を話してきた。
「あの子がホテルいきたいみたいだよ!日本人初めて見たけどタイプなんだって!」
・・・・・・
怖すぎる・・・
まだ会って2分もたっていないのにホテルに誘われてしまった。
以前オーストラリアでストーカー被害にあった僕は女性を少し警戒していた。
笑いながら誤魔化して「疲れてるから行かない」っと言うと、また後ろを振り返り彼女にスロバキア語で何かを話している。
そして再び振り返り「それじゃあ明日遊ばない?」っと訪ねてきたので、明日はこの街にいない事を告げると残念そうにしていた。
夕日も沈み、当たりが真っ暗になり始めたので、宿に帰ろうとするとなぜかその2人はついてきた。
恐らく宿の場所を確認したいのであろう。
歩きながら話をしていると、それほど悪い人ではないようで警戒する事もなくなった。
宿の前でその2人にさよならを告げると僕の頬に軽くキスをして去っていった。
明日はいよいよスピシュスキー城へと向かう。