「ZiNこれカッコイイだろ!」
洗面所で歯磨きをしていると鏡越しに上半身裸のフィリックスが首に銀のネックレスをつけて「自慢のネックレスを見てくれ!」と言わんばかりの自身満々の顔で話しかけてきた。
よく見ると漢字で”羊”と一文字だけ書かれたシンプルなデザインだ。
「カッコイイだろ!ZiNが来る少し前に買ったんだ!」
「・・・何で羊?」
「??・・ひつじ?」
「それは日本語の漢字で羊って意味やけど・・・知らずに買ったの?」
「マジ!?形に一目惚れして買ってしまった・・・」
「いくら?」
「3800円くらい・・・」
「アホやー!!」
少し落ち込んだ事を隠すように半笑いのフィリックスは、そのままお出かけ用の服装に着替えると何事もなかったように自慢のネックレスをテーブルの上に置いた。
今日はミュンヘンの街を案内してくれるようだ。
まず最初に中心街にあるウインナーが美味しいレストランで昼食をとる事にした。
薄い膜に包まれた真っ白なウインナーに、このお店の特性ソースを絡めながら口に運び、そのままドイツビールで一気に流し込む。
ドイツのウインナーは本当に美味しい。
フィリックスが言うには薄い皮も、はいでから食べるのがドイツ流のようだ。
「漢字ってカッコイイよね」
ネックレスの事を引きずっているのか、無意識なのかわからないが、フィリックスが仕切りに漢字について質問をしてきた。
「日本人って中国語も読めるの?」
「中国語は世界で一番難しい言語だし、日本語とは全然違うから読めないよ」
「これは何て意味なのかわかる?」
そう言うとスマホのメモに書かれていた中国語のシェンシェ(謝々)という文字を見せてきた。
「これは中国語でありがとうって意味!日本語じゃないよ!」
「中国語なら何で日本人もわかるの?」
「シェンシェって言葉がありがとうって意味なのはほとんどの日本人が知ってるからね!でも他の言葉は、全然理解でききないよ〜」
「シェンシェって漢字にはそれぞれどんな意味があるの?」
「・・・謝る謝る」
「ゴメンなさいなのに何でありがとうなの?」
「そう言えばそうやな〜・・・何でゴメンなさいがありがとうになるんかな?」
「何で日本語では謝るなのに中国語ではありがとうなの?」
次々と漢字について質問してくるフィリックスに正しい答えを出す事が出来ずにいた。
フィリックスは本当に漢字が好きなようだ。
「日本人や中国人ってお金に困る事ないよね!」
「何で??」
「外国人は本当に漢字が好きだから、それを書ける日本人や中国人はバスキングで漢字を書いて売ればかなりいい商売になるからね!」
確かに僕もこれまでの世界の旅の中で出会った人達に漢字の当て字を書いてあげるとそのかなり喜んでくれた。
僕の描く絵は世界観の方が重要で漢字を入れる事はない。
しかし、確かにお金を稼ぐ事が目的の人なら絵の中に漢字を組み込んだメッセージを書いてもいいし、書道なんてしている人はバスキングだけでもかなり稼げると思う。
オーストラリアのメルボルンやパースでは1日で10万円くらい稼げるなんて話もある。
日本でお金に困っている人は海外で漢字を利用したパフォーマンスをすれば、かなり稼げる事は間違いない。
「ZiNもあれだけ凄い絵描けるんだから漢字も混ぜて販売したらいいのに!」
「いや〜いいアイデアではあるけどそれはやらないかな。本当に伝えたい事にブレが生じてしまうからね!」
僕は小学校低学年の時から深い眠りにつくと、見た事もない世界を飛び回る夢を見る。
その世界を皆に伝えたいと言う事と、あともう一つ絵の中に込めた未来へ向けたメッセージを残し、200年後300年後の未来に伝えたい事がある。
それをするのに誰でも読める漢字を組み込んも意味がないのだ。
今生きている人間にはこの意味が、わからないと思うので詳しくは説明しない。
僕には僕と未来の人間にしか理解出来ない大きな秘密がある。
それを伝えるために今、絵の中に暗号を組み込んでいるのである。
漢字についての質問ラッシュも終わり、ようやくフィリックスにミュンヘンの街を案内してもらう事に。
ミュンヘンではバスキングが盛んにされている。
オーストラリアやアメリカなどの国ではギターでバスキングをする人が多いが、ヨーロッパはチェロやバイオリンなどのバスキングをよく目にした。
絵を描いてライブペイントをしている人は、一人も見た事がなかったので狙い目だと思う。
ちなみに、これまでバスキングをするならオーストラリアをお勧めしていたが、最近ではヨーロッパをお勧めしている。
その理由はこちら。
バスキングを一通り観察してから、次はミュンヘンを一望できる高台に登った。
そしてヨーロッパでも珍しい白の協会。
この旅で死なないよう祈りを捧げてきた。
メッセージも残したのでミュンヘンにいく人は、もしかすると僕の書いたメッセージを読めるかもしれない。
海外に友人がいると旅も充実すると画家活動の基盤となる人との出会いも増えていく事になる。
結局、画家になりたい場合は人と人との繋がりを濃密なものに、できる人でないとやっていけないのだ。
これからも世界で出会った人やこの世界画家旅人で出会ったアーティストの人達と一緒に歩んでいければなと思う。