日中の突き刺さるような日差しにさらされた肌が熱を持ち、どの体制で寝転がっても皮膚の表面をヒリヒリとした感覚が走り抜ける。
穏やかに流れる川、それに寄り添うように長く続く歩道がある。
ポツポツと等間隔に設置されている街灯の明かりの下にあるベンチの上に寝転がり、ハンガリーからオーストリアまでの長旅の疲れを癒していた。
川の上を吹き抜けてくる少しひんやりとした風を感じながら明日の朝までここで時間を潰さなければならない。
今日の昼にここオーストリアのザルツブルクに到着したのだが宿を予約していなかったので、どこかに宿がないか散歩しながら宿探しに出かける事にしたのだが日中の日差しと長旅の疲れがったため、この川沿いの日掛けのベンチに寝転がって休憩しているといつのまにか夜の8時頃まで寝てしまっていた。
これ以上宿を探すのも面倒だったし、これまで何度も野宿をしてきたので「今日はもう野宿でいっか」っとなってしまった。
ザルツブルクは世界中から観光客が集まってくる街で治安も良い。
これまでの経験からこのような裕福な街で寝ていても別に何の問題もなかったので少しも警戒する事はなかった。
お腹が空いたので近くのスーパーでハムとトマトと野菜、そしてビールを購入し、再び元いたベンチに座り、ハムにトマトと野菜を挟むだけの簡単な晩ご飯を口の中に押し込み、そのままビールを流し込む。
景色の向こうのボーと光る街の明かりを眺めていると「自分は1人で海外にきてる行動している」っという実感を突然強烈に感じた。
酔っぱらっているせいか、1人で海外を旅し、野宿している自分が誇らしく感じてくる。
この時は、まだこの先どのくらい旅を続けるのか決めていなかったのでできるだけ節約していたのだが、野宿に関しては普段から率先して挑むようにしていた。
その方が後から絶対に画家活動の役に立つ経験となる事を直感的に理解していたからである。
一見、野宿と画家活動は関係ないような気がすると思うだろうが、この経験は間違いなく画家活動の役に立っている。
なぜなら今こうしてあなたに僕の歩んできた道を伝える事で事細かに僕のしてきた活動を伝える事ができる。
そして人が絵を買う時はその絵以外にもその絵を描いた人の背景
つまりどのような活動をしてきたのか?
どのような人柄なのかを見る事もこの旅の経験からわかっていた。
その事から日本に滞在していた時はバイトをしながらただひたすら絵を描き続けてきたが、それだけでは意味がない事をこの旅で悟った。
しかし、もしも日本で画家活動をするしか方法がないと言うのなら下の記事を参考にして欲しい。
すっかり酔っぱらってしまった僕はバクパックを枕代わりにいつのまにか寝てしまっていた。
それから何時間経過しただろう。
大粒の水滴がまぶたの上に落ちる。
そしてそれは次々と僕の顔の表面にぶち当たり、顔の側面を伝って下の方向へと滴り落ちていく。
その感覚を不快に感じ、僕はようやく目が覚めた。
「雨?」
そう思った瞬間にまるでバケツの水をぶちまけたような強烈な雨の大群が空から振ってきたため、僕は急いでバックパックを背負い、どこか雨宿りができる探すためあてもなく走りだした。
しかし、中々雨宿りができる場所が見つからない。
その間にも問答無用で雨は体を濡らしていく。
もうすでに靴の中の靴下には水が染み込み、それを踏みしめる度に行き場のない水が靴の中に充満し、不愉快な感覚で満たされていく。
そんな時、ちょうど目の前にマンションが見えた。
マンションの一階のベランダの下に50センチほどの狭い隙間が見える。
この際、贅沢は言ってられない。
なぜかこの街には雨宿りをする場所がないのだから。
どこかのホテルまで行くのもかなりの距離歩かなければならない。
もしも空室がなければ、またこの雨の中を長時間歩かなければならなくなる。
その方が面倒だったし、僕は今すぐ睡眠をとりたかった。
それが例え、マンションの一階のベランダの下であってもだ。
体が疲れきっていたのでそのままバックパックをベランダの押し込み、僕も地面に寝そべりながら滑り込むようにベランダの下の狭い隙間に体をねじ込んだ。
これでどうにか雨はしのげる。
あと4時間程度ここで過ごせば体も回復して宿探しをする事ができる。
とりあえず今はここで眠ってしまおう。
そう考える間もなく僕はベランダの下で寝てしまっていた。
相当体が疲れていたのだろう。
しかし、自然の脅威はそれだけでは済まなかった。
雨は止むどころか、らさらに強烈に水量を増しながら降り注いでいた。
その水は僕が寝ているベランダの下に大量に流れ込んでくる。
もう地面の上と言うより水の中で寝ているようだった。
しかし、それでも僕は睡眠をとる。
水に濡れている程度では、この時の僕の睡眠を邪魔する事はできない。
それほど疲れていたのだ。
そして考えようによっては雨が振ってラッキーだったかもしれない。
今日はまだシャワーを浴びていなかった。
「これは天然のシャワーだ。汚い汗が流れおちているんだ。」
そう自分を納得させ、雨の中で寝るために理由を正当化し、そのまま滝のような雨の固まりを体に浴びながらも寝てしまっていた。
次に目がさめるとすっかり辺りは明るくなっており、昨日の雨が嘘のように青空が広がっていた。
疲れきった体を引きずるようにベランダの下から抜け出すと、不思議な事にあの状態でも熟睡できたようで頭の中はスッキリしていた。
そして僕は再び宿を確保するために歩き始めたのだった。
PS.
今思えばこの時は寝たというより意識を失ったような気がする。
これがこれまで経験した野宿で一番辛かった経験になった。
しかし、この経験すらも僕は自分の画家活動のための武器に変える事ができる。
今ではこの時、頑張ってわざわざホテルを探さなくてよかったと思っている。