スロバキアの「進撃の巨人」に似た街に行く途中で死にかける

唇の薄皮が剥がれ落ちた所を舌で舐めながら大きくため息を吐いた。

 

 

ガタガタと揺れるバスの中。

 

 

まだ早朝4時半だったのでバス内は暗闇に包まれており、その中で熱々のコーヒーを飲もうとして唇を火傷してしまったのだ。

 

 

 

昨日のバスの事件からあまり良い事がない・・・

 

 

 

チェコからスロバキアの首都であるブラチスラバに向かうバスをインターネットで予約したのにも関わらず、ネット障害なのか何なのかわからないが、バス停に行くと予約されてませんと言われてしまった。

 

そこから余分な出費をしてブラチスラバに到着したが、無意味な出費にストレスを感じずにはいられない。

 

 

ブラチスラバはスロバキアの首都ではあるが、何だか人もまばらで殺風景な街であった。

 

する事がなかったので安宿で一泊して早朝3時に起き、まだ太陽の昇らない時間帯にレヴォチャという街に向けて出発する事に。

 

 

 

噂によればレヴォッチャは人気漫画の「進撃の巨人」のような壁に覆われた街だという。

 

 

しかし、僕の目的は進撃の巨人の世界観を堪能するだけではない。

 

なぜレヴォチャに行くのかと言うと・・・

 

 

 

そこには丘の上に建つ廃墟の城がある。

 

 

 

その光景を目に焼き付け、僕の頭の中にある世界と照らし合わせて次に描く絵の参考になると考えたからだ。

 

頭の中の世界を鮮明にする旅

僕の頭の中の世界には古代遺跡や廃墟と化した城などが存在しているのだが、やはり記憶だけではどうしても鮮明に描く事ができない。

 

なのでこの現実世界に実際にある廃墟の城を見てその記憶を辿る事にしたのだ。

 

 

小学校低学年の頃から深い眠りについた時に自然と見える夢の中の世界。

 

僕はその頭の中にある世界を描く画家として今まで世界中を旅してきた。

 

そしてこれからもこの旅は終わる事はない。

 

生きている限り絵を描く生活を辞めようとは思わないからだ。

 

 

 

もちろん他の仕事なんてする気もない。

 

 

 

社会不適合者の僕には会社に努めて、したくもない仕事で一生過ごすなんて事は出来ない。

 

絵を描く生活ができなければ、死のうと思っていたくらいだ。

 

 

 

しかし、僕はこうして旅に出て絵を描く生活をおくる事ができるまでに成長する事ができた。

 

 

 

日本にいるほとんどの人はそんな生活不可能だと思っているようだが、僕からすればやった事もないのにそれを頭ごなしに否定する意味がわからなかった。

 

固定概念は時に人の信念を狂わせる魔物と化す事がある。

 

 

 

その魔物を相手にせずに生きてきた。

 

 

 

その結果が今の僕の生活があると言えるだろう。

 

 

 

そんな事を考えつつ、ガタガタ揺れるバスの窓から外の景色に目をやると雲がうっすらとオレンジ色に染まってきているのがわかった。

 

ようやく朝がきたのだ。

 

 

太陽が少しずつ昇るにつれて空の色がオレンジから赤、赤から青に変わっていく。

 

暗闇で気づかなかったが、あたりは草原や山々に囲まれていて人工物らしきものがほとんどない。

 

本当にこんな所に街や廃墟の城があるのだろうか?

 

スロバキアのど田舎で死にかける

スロバキアでは英語が通じない。

 

なので手振り身振りで何とかレヴォチャ行きのバスに乗り込んだのだが・・・

 

行き先が本当に合っているのか不安な気持ちになってきてしまった。

 

バス停にいた人の話では途中のポプラトという街でバスを乗り換えないといけないようだが、中々ポプラトに到着しない・・・

 

 

予定ではそろそろついてもおかしくないのだが・・・

 

 

念のため隣にいたオジさんに「ポプラトまだ?」っと尋ねるとオジさんは「イェーイェー」と適当丸出しの返答が帰ってきた。

 

僕が何を言っているのかわからないようだったが「ポプラトポプラト」と連呼すると「次で降りるのだよ」的な事を言ったのでオジさんを信じて、次の駅で降りてみる事にした。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

何もない・・・・

 

人っ子一人いない。

 

本当にここがポプラトなのだろうか?

 

 

看板を探してはみるものの、近くには今は閉鎖されている古びた教会のような建物とボロボロのバス停だけ。

 

大草原が広がる緑の景色の中に永遠に続くかのような土色の一本道。

 

 

この道は僕が今まで通ってきた道だ。

 

 

それら意外は何も見つからない。

 

 

日陰もない。

 

飲み水もない。

 

気温38度以上。

 

 

 

「死んでまう!」

 

一人で大声で叫んだ。

 

 

 

何とかしたいがどうしようもできないでいた。

 

カバンの中にしまっていたIPhoneをとり出し、ダメ元でインターネットに接続する事に。

 

すると奇跡的に15分だけ使えるフリーWi-Fiがある。

 

 

これで何とかなると思ったが、そう言えばこの国は英語が通じない・・・

 

 

八方塞がりの状況に陥ってしまった。

 

 

よく考えればここはバス停なので、もしかするとすぐに次のバスが到着するかもしれない。

 

それまで何とかして待つ事にした。

 

 

しかし・・・

 

 

それから2時間が経過したが、いっこうにバスがやってくる気配がない。

 

 

 

バスの中のオジさんの言う事を聞いたのが間違いだった。

 

昨日のバスの事件といい、今日の適当ジジイといい、何だか最近無駄にストレスを与えられる事が多いように感じる。

 

 

 

ヨーロッパは素晴らしい絶景や歴史的建造物などが多数あり大変勉強になるのだが、交通機関のサービスに関してだけ言えば最悪だ。

 

世界の旅にでる前までは日本のサービスは普通の事だと思っていたが、海外にでると改めて日本はなんて良い国なんだと思える。

 

 

 

灼熱の太陽の下でそんな事を考えていた最中、一本道の向こうに人影が歩いてくるのが見えた。

どうやらこのバス停に向かって歩いているようだ。

 

人影の方に走り寄っていくと、だんだんその姿が鮮明に見えてきた。

 

どうやら10代の青年のようだった。

 

僕は彼に手振り身振りで「ここポプラト?」っと尋ねると、彼は英語で「違うよ」と答えてくれた。

 

 

 

どうやら少し英語が通じるようだ。

 

 

彼の名前はトーマス。

 

この田舎街に住む青年らしい。

 

今からポプラトに行くにはどうすればいいのか尋ねると、トーマスが親切に連れていってくれると言う。

 

 

ちょうどポプラト行きのバスも、あと15分で到着するようだったので、何とかこの最悪の状況を脱出できる事となった。

 

 

ヨーロッパのバスは日本ほど正確に運行していないため、バス到着予定時刻より30分遅れて僕たちのバス停に到着した。

 

 

 

バスの中はクーラーがきいていて火照った体を一気に冷やしていく。

 

 

助かった・・・

 

 

トーマスがいなければ僕の性格上、バスを待たずに自力で歩き始めていたかもしれない。

 

 

それから数分後、トーマスが「ここがポプラトだよ」っと教えてくれたので、無事にポプラトに到着する事ができた。

 

トーマスにお礼を言って、ポプラトのバス停で次は進撃の巨人の街レヴォッチャ行きのバスを探す事にしたのだが・・・

 

 

 

さっきまでの灼熱地獄から一転、大嵐がやってきた。

 

風が強すぎて雨が横に降っている・・・

 

あのまま歩いていたら途中でびしょ濡れになって、カメラもパソコンも壊れてしまっていたかもしれない。

 

 

その前に強い風に飛ばされて死んでいたかもしれない。

 

 

危なかった・・・

 

 

それにしても雨を見るのは久しぶりだ。

 

 

僕はこれまでの旅で雨が降った日がほとんどない。

 

ヨーロッパの旅だけで言えば、すでに4ヶ月が経過していたが1日たりとも降っていない。

 

やはり最近ついていないようだ。

 

 

晴れ男の僕がまさかこんな大嵐に遭遇するとは・・・

 

 

 

しかし、人生には良い事もあれば悪い事も当然ある。

 

その周期は一定で波のように押し寄せてくるのだ。

 

なので災難ばかり続いていたこの旅もそろそろ良い事が起こるだろうと予感していた。

 

 

 

レヴォッチャの情報は進撃の巨人のような世界観の街という事意外全く調べていなかったが、行けば宿くらいあるだろうと考えていた。

 

それに僕は良い安宿を発見する方法も旅の中で習得している。

 

その方法については次回のヨーロッパの旅でお話しようと思う。