スロバキアからハンガリーへ移動中に日本ではありえない日常を体験した!

 

体中のあちらこちらに鉛を埋め込まれたかのように重く感じる。

少し体をひねるだけで背骨や、肩の関節がパキパキと音を立てている。

 

「あぁ~疲れた~」

 

僕はシャワールームで独り言をつぶやきながら汗と土汚れでドロドロになった体をシャワーで洗い流していた。

 

スロバキアで丘の上にある廃墟の城「スピシュ城」を訪れ、次に描く絵のインスピレーションを頂けたのでスロバキアを訪れた目的を果たした僕はその日の内にハンガリーのエベスという田舎街を目指す事にしたのだが、その道中日本ではありえない体験を2つもする事になった。

 

まず1つ目の日本ではありえない体験というのは、ヨーロッパの理不尽な交通機関のサービス。

 

これはもはやサービスとは言えない。

 

僕は今までのヨーロッパの旅で嫌というほどそのような理不尽な体験をしてきたのだが、やはり何度体験してもストレスに感じるし、もういい加減にして欲しいと感じていた。

 

 

ヨーロッパには日本にはない画家活動に役立つ刺激が沢山あるが、この交通期間のサービスだけは最悪である。

 

スロバキアからハンガリーへ向う長旅

 

昨日の夜18時半に突然僕は、スロバキアからハンガリーに向かう事にした。

 

ハンガリーへ行く目的はその時点では、何も決めてはいなかった。

 

ただこれからの予定としてオーストリアとドイツで友人と会う約束をしていたので、そのついでに訪れる国くらいにしか考えていなかったのだ。

 

僕の旅の計画はいつも唐突に決まり、その日もハンガリーに行くと決断した瞬間からスロバキアのレヴォチャからハンガリーのエベスという田舎町に向かう事にした。

 

夜の18時半にレヴォチャから、スピシュカー・ノバーベスという街にバスで向かい約10分程度で到着した。

 

僕は新しい国に行く時は、何も調べずに向かう事にしている。

 

先に何があるのかわからない方が旅を楽しむ事ができるし、わからない事があれば地元の人に尋ねる事で人との出会いという確立が格段に上がるからである。

 

 

この日もハンガリーまで行く道のりで、一番効率がよい方法をバスの運転手に尋ねると、電車で行くのが一番スムーズだと教えてくれたのでスピシュカー・ノバーベスのバス停近くにある駅で電車チケットを購入する事にした。

 

 

 

チケットの予定表ではコルツェという街からAM6:02分出発してミシュコルツ・ティサという街にAM7:26分到着する。

 

それから電車を乗り換えてAM7:31分にミシュコルツ・ティサを出発し、AM9:02ハンガリー第二の首都デブレツェン到着する予定。

 

そして最後にデブレツェンからひと駅の所にあるエベスという街へ行く予定である。

 

 

まずはスピシュカノーバベースから電車でコシツェまで1時間で到着した。

 

この時すでに夜の8時。

 

次の日の早朝AM6:02に出発する。

 

これから約10時間、真夜中のコシツェの街で過ごさなければならない。

 

宿を探そうとも考えたが、たかが10時間滞在するのに普段と同じ値段の宿代を払うのがもったいなく感じ、それなら野宿でもして時間を潰せば良いと考えた。

 

 

無計画の旅ではこのように、長時間待たなくてはいけない状況が沢山訪れるが、僕はその無鉄砲で雑な旅が自分を強くするような気がしていた。

 

 

日本円で一本50円ほどのビール500mlと晩御飯の食材を購入した後、今夜の寝床を探すためにコシツェの街を大荷物を抱えながら歩いていると駅の近くに大きな公園を発見した。

 

これが今夜の宿。

 

お金を払う必要もない。

 

ベンチに腰掛け、ようやく落ち着いたので晩御飯の支度へと取り掛かる。

 

いつも持ち歩いているアーミーナイフでトマトを細かくカットし、レタスを手でちぎる。

 

それらをハムで包み込み、塩コショウをふりかけ、一気に口の中に押し込んで数回噛んだらそれらをビールで流し込む。

 

最近ではこのお手軽で安上がり、しかも美味しい旅飯にハマってしまい、毎晩のようにこれで晩御飯を済ましてしまっていた。

 

公園の通路に設置されている外灯の下、静まり返る公園の中で一人もくもくと体にエネルギーを補充していた。

 

 

ビール2本を飲んだあたりで気持ちよくなってきてしまい、まだ夜の9時だったが睡眠をとる事に。

 

 

大きなバックパックを盗まれないように枕替わりにし、ベンチに横になる。

 

「あ~・・・俺、今一人で外国を旅してる」

 

日本に住んでいては絶対にできない体験をしている事を実感しながら薄れゆく意識の中、そのような事を頭の中でつぶやいていた。

 

暗闇の中、日本ではありえない状況に遭遇した。

 

ベンチに横になって何時間かたった頃、突然僕は目覚めた。

 

公園内の外灯は消えて真っ暗闇の中、2人の人影が僕のベンチの前に立っている。

 

 

寝ぼけ眼だったのでその瞬間何が起きたのか、理解するのに数秒かかってしまった。

 

目をこすりながらその2人組をよく見ると、警察の制服を着ている。

 

そして何やら僕に話しかけているが、日本語と英語しかわからない僕には、彼らが何を言っているのか理解できなかった。

 

 

手振り身振りで話しかけてきている、2人の伝えたい事を何とか感じ取るとどうやら公園を閉めるの出ていけと言いにきたようだ。

 

何時なのかiPhoneで確認しようとすると、これまでの長旅で電池を使い果たしたのか、真っ暗な画面のまま反応してくれない。

 

「今何時?」

 

僕は警察の腕時計を指差して簡単な英語で尋ねた。

 

すると警察もそれは理解できたようで「12」っと左手の人差指と右手の人差指、中指を立てながらジェスチャーで伝えてきた。

 

 

どうやら3時間ほどベンチで寝てしまっていたようだ。

 

 

硬いベンチに横になっていたせいか体の節々につっかえ棒が引っかかっているように感じる。

 

体をゆっくりと起こし、荷物を持って僕は再び駅の方へと歩いていった。

 

眠気からかもう歩くのも寝床を探す気力もなくなってしまった僕は、駅の前の茂みに荷物を放り投げてそこで眠る事にした。

 

 

背中に少しひんやりとした冷気が芝生の根元から伝わってくる。

 

すこし湿っているようにも感じたが、強烈な睡魔には勝てず、そのまま数分で眠りについてしまった。

 

 

それから何時間たっただろうか。

 

 

冷え切った体と体の節々の痛みを感じながら目を冷ました。

 

 

駅の近くに設置されていた時計の針は3時を差している。

 

「まだ3時か・・・」

 

時間の経過がやけに遅く感じながらも眠気はすっかり無くなっていた。

 

暗闇の中、何をするでもなく、ただただ時間が過ぎるのをその場で座り込みながら待っていた。

 

 

これまで野宿は何度もしてきたのだが、今回の野宿が一番キツイと感じる。

 

昨日の朝からずっと動きっぱなしで、知らず知らずの内に体への負担が大きくなっていたのだろう。

 

 

背筋を伸ばし、背骨をボキボキとならしながら何気なく茂みの奥にある芝生に目をやる。

 

 

すると暗闇の奥で何かが動いたような気がした。

 

 

駅に設置されている外灯も届かない場所なので、集中してその暗闇を見なければ何なのか確認する事ができない。

 

しかし、何かが動いているのは確かだった。

 

「猫か?」

 

最初はそう考えたが、明らかに猫よりも小さく、地面を少しずつ移動してる様子からそれが他の何かだとは理解できたが、依然その姿を捉える事ができずにいた。

 

 

暗闇に微かに見えるそれの形は手のひらサイズの大きさで丸みがあり、移動する時はその体を小さく左右に揺らしている。

 

「亀?」

 

大きさと移動スピード的には亀を想像させるが明らかに歩き肩が亀ではない。

 

 

だんだんその得体の知れないものが僕の方向へと近づいてくる・・・

 

 

ちょうど月明かりと駅からの光が届く位置に到達してようやくそいつが姿を現した。

 

 

 

そいつは白い針で背中が覆われていて、とんがった鼻を持ち、愛らしい目をしている。

 

 

「うわ!!ハリネズミ!!!」

 

 

野生のハリネズミを人生で始めて目撃した僕は興奮し、写真におさめようと思い、すぐにカバンから一眼レフをとりだしたが充電するのを忘れていたため、電源を入れても反応してくれない。

 

 

すでにiPhoneも電池がきれていたので撮影できない。

 

この時だけは自分の旅の無計画さに本気で後悔した。

 

まさかこんな深夜の駅の前の芝生で遭遇するとは夢にも思っていなかった。

 

 

突発的に起こる事件が楽しくて仕方がない。

 

 

日本で過ごしていれば何の刺激もない日々をただ淡々と過ごしていくだけであるが、旅をしていると多くの人との出会いや予想できないアクシデント、そして今回のような想定外の刺激を毎日得る事ができる。

 

 

これだから旅はやめられない。

 

 

写真撮影が出来ずにショックを受けている僕の視界から少しずつ遠ざかっていくハリネズミを愛しむように見届けている間に、ふと自分の体が冷え切っている事に気がついた。

 

理不尽な交通期間サービス再び

 

店内は柔らかいランプの光で照らされ、コーヒー豆の匂いが漂っている。

 

暖かいカプチーノが染み入るように体の中に入っていくのがわかる。

 

僕は駅の前から繋がる細い暗がりの道にポツンと一つだけあるBARで電車が到着する時間まで時間を潰す事にしていた。

 

BARと言ってもコーヒーがメインの小さなお店で、もちろんお酒も完備されている。

 

 

ハリネズミを目撃した後、駅の前の芝生でボーッと目の前の空間を眺めながら冷え切った体を手でこすりながら温めていた。

 

すると突然僕の後方から誰かが話しかけてきた。

 

「こんな所で何してるんだ?」

 

後ろを振り返るとTシャツがはち切れそうなほど膨れ上がった筋肉を持つ男とその彼女らしき女がそこに立って僕を見下ろしていた。

 

片手には瓶ビールを持っている。

 

「電車の時間まで待たなければいけないのでここで時間を潰しているだけです。」

 

「こんな所に一人でいたら危ないぞ!今からコーヒーBARにいくけど一緒に行くか?」

 

体も冷え切っていたし、ちょうど暖かい飲み物が飲みたかったので、彼らについていく事にしたのだった。

 

店内に入った瞬間、暖かい熱気が体にまとわりつき、ジンジンと体の内部に熱が伝わっていくのがわかり、それほど体が冷え切っていたんだなと実感した。

 

 

男と女はすでにベロベロに酔っ払っており、人目もはばからずディープキスをしている。

 

そんな彼らを横目にカプチーノをちびちびと飲みながら、電車の出発時間までここで待機させてもらう事にしたのだった。

 

 

それから数時間後、BARの窓から見える空も徐々に灰青色に染まってきているのが見えた。

 

間もなく出発の時間が来そうだったので、男と女に別れを告げ、僕は駅の方へと歩きだした。

 

 

ようやくコシツェから離れる事ができる・・・

 

 

予定表ではAM6:02にコシツェ出発し、AM7:26にミシュコルツ・ティサに到着する。

 

そして次にハンガリー第二の首都デブレツェン行きの電車がAM7:31に到着し、その電車で最終目的地のエベスに向かう。

 

 

 

これで全ての移動が終わると思うと何だかホッとする。

 

電車で移動するだけなのでこのまま何事もなく無事にハンガリー入りが出来るだろう。

 

 

そう思っていた・・・

 

 

コシツェの駅に無事に到着し、そのまま何事もなく電車は走り続けていた。

 

 

予定ではこのままミシュコルツ・ティサに到着してハンガリー行きの電車に乗り換える段取り。

 

すでにチケットも購入しているので安心していた。

 

 

しかし、何か違和感がある。

 

 

電車内の時計を見るとAM7:25・・・

 

 

乗り換えの電車が到着するのがAM7:26なのだが、電車は走り続けていてまだ駅につく気配がない。

 

すでに次の乗り換えの電車のチケットを購入しているので、まさかそれで乗れないなんて事はないだろう。

 

 

そう言い聞かせるように自分自信を納得させていた。

 

そんな僕の思いをよそにどんどん時間が過ぎていく。

 

 

結局ミシュコルツ・ティサの駅に到着したのが、AM7:33だった。

 

ハンガリー入の電車到着予定はAM7:26。

 

もうすでにその時間が過ぎていた。

 

 

意味がわからず、チケット売り場のおばさんにこの事を尋ねると、すでにハンガリー行きの電車は出発してしまったという。

 

しかし、すでにチケットを購入し、僕は予定通りに電車に乗った事を告げると

 

「電車が遅れたから仕方ないね。新しいチケット買うしかないよ」

 

っと言われてしまった。

 

 

これは詐欺ではないのか?

 

 

最初にチケットを購入してその通りにきたら乗り換えの電車がもうない。

 

そしてまた新たにチケットを買えという。

 

 

ヨーロッパの旅の移動での理不尽なトラブルはこれで何度目だろうか・・・

 

 

僕の中では怒りを通りこして諦めに変わっていた。

 

 

抗議をする気力もないほど疲れきっていたので、そのまま何も言わず、新しくハンガリー行きのチケットを購入し、AM8:35出発の電車に乗り込み、次の街へと向かうのであった。

 

 

やはりヨーロッパの交通期間サービスだけは、最後の最後に何かをやらかしてくれる。

 

今まで何度もこの移動サービスの悪さでストレスと無駄な出費をさせられてきた。

 

 

ヨーロッパの旅はもう終わりにしてしまおうかと思うほどヨーロッパの理不尽な交通期間サービスにイライラがつのっていた。

 

そんな僕の思いとは裏腹に和やかな朝の光が窓から差し込み、窓ガラスに額を押しつけた僕の顔を優しく包こむようにおぼろげに輝いている。

 

 

窓から手前に見える景色は瞬時に通りすぎ、遠くに見える田園や山の景色は左から右へゆっくりと移動しているように見える。

 

ガタンゴトンと一定のリズムで刻まれる電車の音と揺れは心地よく、心身ともに疲れきった僕にはまるで子守歌のように聞こえていた。

 

 

それから当然何事もなく無事にハンガリー第二の首都デブレツェンに到着し、そこから一駅の所にある田舎街のエベスに到着する事ができた。

 

約15時間の大移動。

 

ほのぼのとした田舎街の景色を見る事もなく、そのまま宿探しを始め、一発目に見つけた宿へと飛び込み、シャワーを浴びた。

 

 

今回の大移動はヨーロッパの旅で一番疲れた1日だったかもしれない。

 

 

次からはもう少し計画的に旅を進めようと決意し、昨日からの出来事を思い返しながらベットに沈むように横たわったのだった。