絵を描く仕事をしていると必ず通る問題点・・・
それは「絵を描いてよ」という言葉。
「え?普通じゃない?」と思うかもしれないが、これは画家だけではなくグラフィックデザイナーやWEBデザイナーなど何かを0から造り出すアーティスト達にとっては、かなり深刻な問題なのだ。
なぜそれが問題なのか?
例えば絵を描く仕事をしている人に「絵を描いてよ」と言うとする。
しかしその言葉の裏には「タダで」という意味が隠れている時もあるのだ。
この問題点は「簡単に頼むな!」という単純な理由ではない。
社交辞令で頼むのなら、まだこちら側も簡単に受け流せる。
しかし、なかには絵を描いて欲しいと本当に思っていても「知り合いだからタダでと描いてくれるだろう」と思い込んでいる人もいるのは事実。
そういった頼みをする側の人は自分だけが頼んでいると思っている人がほとんどなのだが
実際は複数人から同じようなお願いをされている場合がほとんどなのだ。
グラフィックデザイナーなら「今度イベントするからフライヤーをつくって欲しい」の裏に「タダで」
WEBデザイナーなら「HPのつくれる?」の裏に「タダで」と言う言葉が隠されている。
もちろん、そのような人ばかりではないし僕もできれば要望に答えたいが
その要望に答える事ができない理由があるのだ。
このお願いを受け入れた時の事を僕の実例で説明しよう。
特にオーストラリアに絵の修行の旅へ行く以前にこう言った頼み事が多かった。
一年間で約10件ほど「絵を描いてほしい」と頼まれる事があったが、当時の僕は旅の資金を貯めるのに必死になっていた。
「結婚するから描いて欲しい」
「新築を建てたから描いて欲しい」
「部屋をかっこよくする絵が欲しい」
それは僕がまだまだ画家としての魅力がなかったのかどうかは今となってはわからないが、知り合いだからタダで描いてくれるだろうという思いを強く感じた。
僕は基本的にB1(728×1030)サイズを描いているのだが、その4分の1程度なら描くと承諾してしまったのだ。
現在では、こんな事は確実にしないし基本的には世界にいる5人のクライアントさんにしか原画を売らないようにしている。
完璧を求める僕はその4分の1の作品でも手をぬかなかった。
その「タダ」の頼みが10件ほどたまってしまった当時、収入が発生する絵の依頼3作品ほど描く合間をぬってタダの絵を描こうとした。
僕の絵は繊細で細かい作業が多いため休憩しながら描いて、小さいサイズでも最低で1ヶ月はかかるし、B1サイズなら1ヶ月半はかかる。
3作品を描き上げるのに最速で4〜5ヶ月。
旅へ出発する予定がここから7ヶ月後だった。
仕事が終わればその休憩時間を「タダの絵」についやし、休日で何もしない予定の日も描かなければ旅の出発に間に合わなかった。
結果、1ヶ月間寝る以外の時間は絵を描いていて休憩なしで休日なしの日が続いてしまい、絵を描くモチベーションも落ちていった。
絵を描くには気分転換が絶対に必要なのだが、その時間もつくれなかったので心が病んでいくのがわかった。
結局タダの依頼の絵は1作品であとは断る事にした。
その1作品もそんな気持ちで描いたので、僕の納得いく作品には仕上がらなかったのが僕の中で最大の汚点となっている。
断る時も自分の浅はかな考えと、相手に申し訳ないという罪悪感でいっぱいになってしまうので、この時からこういったお願いは事前に断るようになった。
ちなみに他の3作品は自分の満足いく作品までに仕上げたので、海外のクライアントさんや日本のクライアントさんの手元に無事わたる事になった。
タダで依頼をする時に考えるべき事
最近では世界43ヶ国以上を絵の仕事をしながら旅をしてきた事を知ってか知らずか、そう言ったお願いは少なくなってきたが、それでもまだ完全になくなっているわけではない。
別に「タダで」と言う事自体が嫌なわけでも悪いわけではないのだが、
最大の問題点は頼む人がこちらの休日や休息の時間を奪う事を理解できていない事にある。
これを一ヶ月普通に働いて20万円の給料をもらえる普通の会社員に例えて説明してみよう。
想像してみてほしい。
朝の9時から夕方の6時まで会社で働いて、その後の夜12時に寝る間の時間はタダで働く。
そんな平日が5日間あった後の土日も収入が発生しない仕事を寝るまで丸一日する。
休日が一日もない仕事ばかりの日々をまる一ヶ月したのにもかかわらず給料は同じ20万円。
もし、この働いた日全て収入が発生するとしても休日もない日がこれからずっとも続くと思うとゾッとする。
画家やグラフィックデザイナー、WEBデザイナーなどの時間がかかる何かをつくり出すアーティストにタダで頼むと言う事は
「給料はあげないけど休みなしで働いてくれ」と会社に言われるようなものなのだ。
それが一件だけなら引き受けてもいいと思うかもしれないが、実際そういった頼みは何件も頼まれていると意識した方がよい。
まとめ
もしも僕が適当で完璧ではない絵を相手に渡す事に何も感じない性格なら、適当な絵を描いてその10件の頼みもすぐ終わらしていただろう。
しかし僕は絵だけは中途半端で終わらす事はできない性格だ。
完璧を目指すあまり休日や休息の時間を全て使ってしまうのだ。
なので、さきほども言ったとおり今では世界にいる5人のクライアントさんにしか描かない事にしているが、中にはどうしても描いて欲しいと熱望してくれる人もいる。
それに僕の絵をもらってもらう人は信頼でき、なおかつ僕の絵を子供のように大事に扱ってくれる人にもらって欲しいのだ。
こう言った頼みがあったので今では人数をしぼるため、これからつくるZiNARTメールマガジンのなかで僕に直接連絡をとれるようにして話を聞いていこうと考えている。