ケアンズに来てずっとしなければならない事があった。
それは気球に乗り上から見た世界を脳裏に焼き付ける事だった。
理由は簡単で絵を描く時の構図の参考になるからだ。
絵の修行をするためにオーストラリアの旅に来たので、自分に必要な構図の情報をできる限りこの目で確認したかったのだ。
これから描く絵は横から見た世界ではなく、上から見た世界を描いて行こうと思っていたが、僕は上から見る世界がどのように見えるのか想像もできなかった。
気球に乗れば少しづつ上昇していくので、絵の参考になるうってつけの乗り物だと考え、バルーンツアーに参加する事にした。
朝の4時に僕が泊まっている宿の前にバスが迎えにきて出発。
眠い目をこすり、朝食をバスの中で食べながら数分走ると広い草原の真ん中にしぼんだ巨大な気球が横たわっていた。
気がつくと太陽がのぼり始め、朝日が気球を照らし始めている。
近くで見る始めての気球は、かなり大きく膨らむ気球を見ているとワクワクした感情が溢れ出しそうになる。
いよいよ空の旅へ出発する。
気球は少しずつ上昇していき、下にいる人や車が少しずつミニチュアのように小さくなっていった。
遠くに見える別の気球をみながら今の高度や上から見た景色、そして背景がどのように見えるのか構図を考えながら確認していた。
全て絵を描く時の参考にするためである。
さらに気球は上昇し、僕が絵で描きたいと思っていた高さまで到達した。
やはり想像するのと直に見るのでは見え方が違う。
こういった経験は画家にとって大切であり、自分の目で直接得た景色の構図や光の反射、そしてその時の感情を絵に描き入れる事によって、よりリアリティーな作品にしあがるのだ。
あとはこの景色の構図と僕の世界を融合させるだけ。
しかしこの時はまだ絵の技術もそこそこだったので、この経験を生かした作品を描くのはオーストラリアの旅が終わった後の事だった。
そうこうしていると気球は雲を突き抜け、下の景色が見えなくなった代わりに雲の大地が姿を表した。
雲の上まで行くとは聞いていなかったので驚きと神秘的な光景に心が踊る。
しかし・・・
ちょうど朝日の所に雲がかぶってしまい、気球から朝日を見る事ができなかった。
この時またどこか違う国で気球に乗って朝日を見る決意をしたが、それから2年後トルコのカッパドキアで地球ではない他の惑星のような景色を見ながら朝日を見る事になる。
僕はそんな想像もしていなかった未来が待っている事も知らずに、ケアンズの気球の空の旅は終わった。
この時の経験は僕の感性をくすぐり、僕の中でかなり大きな影響力があり、絵の向上にも確実に役に立つことになる。
絵の上達がしたいなら、やはり様々な事を直に経験する事が一番の近道なんだと感じた空の旅だった。