基本的に何も決めず、その地の情報も仕入れないまま
旅をするのが僕のスタイルだ。
スペインのマドリードの駅についた時に
宿を決めていなかったのでインフォメーションの
おじさんに宿の情報を聞くとイングリッシュノーと
言われ、そのおかげで出会ったアフロの青年フィールに
宿を紹介してもらったうえ、その場所まで案内してもらい、
無事に宿を確保する事ができた。
フィールにお礼を言ってマドリードの街を
探索する事にした。

マドリードは観光客でうめつくされていた。
僕は人混みはあまり好きではないのだが、
新しい地に来たというワクワクした気持ちで
いっぱいになっていた。
日本では味わえないような空気感や日本ではありえない
お店、そして世界各国からくる人達の熱に圧倒されていた。

昨日から一睡もせず暗闇の電車で8時間耐えながら
ポルトガルからマドリードへ向かう長旅移動の疲れ
もマドリードの街の活気にかき消されたようだった。
そして何も決めていなかった僕はどこへ向かうわけでもなく
ブラブラ歩いていると絵を展示している美術館を発見した。
ヨーロッパを旅する理由の一つが海外の画家が描く絵を
直に観て体感し、自分の中にどんな変化が現れるのかを
確認するためでもある。


中には風景画や人物画など様々なジャンルの絵が展示されていた。


その中でも僕が一番興味深かったのが抽象絵画だった。

今まで抽象画を描こうとは思わなかったが、この美術館にある
様々な抽象画を目の当たりにし、その存在感に圧倒されながらも
僕もこのよう対象のない芸術を描いてみたいと思うようになった。
僕だけが描く事ができるタッチの技法を使いながら
抽象画を自分が感じるまま、思うがままに描けば
インパクトある作品ができあがると確信している。
そんな思いで美術館をまわっていると昨日の長旅で一睡もして
いない疲れが急にきてしまい、いつの間にか美術館のソファーで
眠ってしまっていた。
警備員の優しいおじさんに起こされ疲れをとるために
宿に戻って睡眠をとる事にした。
美術館に行く時は睡眠をとってから行くべきだと
強く思ったマドリード初日の旅だった。

朝の7時に目が覚め朝食を食べてから
スペインへ旅立つ準備をしていた。
ポルトガルのカステロ・ブランコから
スペインのマドリードへ向かう予定だが、
まだ何も調べていないのでどうやって
行くのかもわからなかった。
しかしこれが僕の旅のスタイルなのだ。
何も調べないで旅をする事によって
様々な出会いに遭遇する機会が増える事は
オーストラリアを1年間
旅してきた中で学んだ事だ。
情報を知らないと人にきく癖がつく。
人にきくとそこから
友達の輪が広がっていき、
僕に興味を持ってくれる人も当然現れる。
なぜなら僕は大きなキャンパスや筆、
絵の具を持って旅をしているので
他人から見ると
「こいつはこんな大荷物を持って何をするんだ?」
と考えるのだろう。
実際何度もこの荷物は何?
と何度も聞かれた事があり、
絵を描くための道具が入っている
と言うと高い確率でどんな絵を
描くのか見せてくれと言われる。
そこで気にいってもらい
仲良くなって家に招待されたり、
絵を売ってくれと言われる事が多かった。
しかし、逆に困難な状況におちいる事も少なくない。
今回のポルトガルから
スペインへ行く途中でもそれは起こった。
朝の準備が終わる頃、昨日モンサントへ
連れていってくれたピーターが
迎えに来てくれた。
仕事の合間をぬって
お別れの挨拶にわざわざきてくれたのだ。
カステロ・ブランコで出会った
見ず知らずの僕にかなり親身になって
親切にしてくれた彼ともここでお別れ。

ポルトガル語が話せない僕のために
バス停まで車で送ってくれてさらに
バスチケットを購入して
スペインへの行き方も聞いてくれた。
最後の最後まで本当に親切な彼とも
お別れをして次はポルトガルの
グアルダという国境付近の町で
電車に乗るとスペインの
マドリードまで一本で行けるようだ。
と言う事でバスでグアルダへ向かった。
グアルダに到着したのが午前11時。
坂道が多く大量の荷物を持って
移動するのはかなり辛かったが
通りすがる人に片言のポルトガル語で
駅の場所を聞くとここから歩いてすぐの距離だと言う。
それから30分歩いても中々たどり着かない。
また別の人に聞くと
すぐそこにあると言って同じ方向を指差した。
それかさらに30分歩いて
ようやく到着する事ができた。
ポルトガルの人のすぐそこは
日本人の僕にとってかなりの距離が
あるように感じた。
駅についてチケットを購入しに行くと
もう今日の電車はないと言われ
一番早く出発する電車はいつくるのか
訊ねると夜中の1時半だと言う。
現在昼の12時・・・・
色々考えた結果13時間駅で待つ事にした。
大量の荷物があるので
この町の観光もできないし、
なにより田舎町なので
そんなに観光できる場所もない。
僕は仕方なくビール片手にPCの中に入っている
映画を観ながら13時間待つ事にした。
しかしそれから30分後に
PCの電池がなくなってしまい
映画を見る事もできない。
ボーッとしていても仕方がないので
この時間を利用してこれから描く
絵の下書きを描く事にした。
僕はこれまで自分の頭の中の世界を
描いていたが、オーストラリアを
旅していた時に違う作風も描いて
みたいと思い、この世界をまわる旅では
アート作品を描きためる事にしている。
ちょうどいい紙がなかったので
電車チケットの裏に下書きを描く事にした。

これはポルトガルのとある
美術館で見たアンモナイトを
モデルに描いた下書き作品だ。

とりあえず下書きを描いて
頭の中で鮮明にしてから大きなキャンパスに
絵の具で絵を描いていくようにするが
その作品は後ほど公開する。
なんだかんだで要約13時間経過して
電車が到着する時間になった。
しかし・・・
到着時間になっても電車がこない。
駅には僕しかいない。

本当にくるのか不安になっていた時、
遠くの方で電車のヘッドライトが見えてきた。
到着時間より40分も遅れて電車が駅に止まった。
日本ではありえない事だが
海外では普通にこのような事が起こる。
日本の公共機関は時間を徹底して
守る世界でも数少ない国なのだ。
大量の荷物を電車にのせ、
座席に座り少し遅い晩ご飯を食べ、
ポルトガル最後の風景を眺めながら
マドリードに向かった。